いい写真とは何か?
写真を教えたりしていると、生徒さんに「この写真どうですか」と聞かれる事がよくあります。
「もっといい写真を撮りたい」と写真を撮る人なら誰しも思う事ですが、いい写真とはかなり曖昧なものでそこに答えはありません。
試しにフォトグラファーに会う機会があれば「いい写真とは何か」聞いてみてください。フォトグラファーが10人いたら10人それぞれが独自の答えを語ってくれると思います。しかし、全員の話が正しいという訳でもなければ、間違っているという訳でもありません。「いい写真」を追求するために、それぞれが自身の経験をもとに自分なりの目標を持っていて、目指しているイメージが異なるから答えが違って然るべきなのです。
大切なのは「自分が目指す完成形をイメージすること」です。
目指したいイメージを持って撮影し、それに近づくように色調整やレタッチをする。自分のイメージ通りの写真になったなら、それはあなたにとっての最高の一枚であり、あなたにとっての「いい写真」になります。
いい写真と思うのは主観であって、どんな写真であっても万人の正解にはなり得ません。
「この写真どうですか」という質問は「人参好きですか」と同じような類の質問で、「私は好きです」としか言えないし、私一人の好みを聞いたところであまり意味がありません。こんな言い方は投げやりに思うかもしれませんが「その答えはあなた自身が決める事で、答えはあなたの心の中にしかありません」というのがしっくりくる回答ではないでしょうか。
必ずしも「いい写真 = 伝わる写真」ではない
さて、ここで話は少し変わりますが、私がフォトグラファーとして活動するようになってから長く使っている名刺があります。写真名刺で、その写真は私がまだ大学生だった頃に夏休みを使って一ヶ月間東南アジアを旅して回っていた時の写真です。
当時愛用していたRicohのGX100というデジタルカメラで撮影した一枚です。アンコールワットを自転車で回っていたところ、カンボジアの子どもたちに囲まれて遊んでもらっていた時に撮影したもので、物乞いを仕事としている彼らの屈託のない笑顔と子供らしさに心惹かれたのを覚えています。「One dollar,please(1ドルちょうだい)」を繰り返しながらずっとついてくる。もうお金はあげないよーと渋っていると、じゃあそのカバンをくれと泣き真似をする子、そのやりとりを笑って見ている子が写っています。当時この名刺で長く稼ぐことになるとは思いませんでしたが、いま思うとあの時カバンをあげて良かったと思います。
この名刺を渡すと大抵「いいですねー、どこの国ですかー?」という話になり、話題づくりにも適していると思っていました。しかし、私の好きな先輩に見せた時に言われた言葉に、思わずハッとさせられたことを覚えています。
「俺は好きじゃないな。理由はずるいから。いい写真って言わないと悪いやつみたいじゃん。」
なるほど!その言葉に妙に納得しました。“いい写真だろ”と言わんばかりの厚かましさがあることにその時気付かされました。もちろん、この写真を撮った当時は、そんなことは考えていませんでした。初めての海外で異国の地を練り歩きながら、感情が動いた時にカメラを向けてシャッターを切っていました。ピントやブレなんか二の次。この写真を、日本に帰ってから誰かに伝えたいと思いました。楽しくて仕方ありませんでした。
写真の撮り方だけでなく、見せ方も大切
自分で言うのも恥ずかしいですが、そんな純粋な気持ちで撮影した写真ですら、時には意図しない見られ方をすることもあります。この写真も名刺ではなく、東南アジアの展示会などに展示する写真であれば、違った見え方をしたと思います。いい写真と思っていても、それを見せる場所や伝え方の違いで、相手が受ける印象が変わってしまうこともあります。写真だけでは、伝えたいことを伝え切れないこともあります。「何を伝えたいのか」ということをしっかりと定めて、それをどのような写真で、どんなシチュエーションで見せるのが良いかなど、「伝わるように伝える」ことに焦点を当てていれば撮影の仕方や見せ方も変わっていたかも知れません。そんな気持ちを忘れないように、フォトグラファーとして生きていきたいと思わされた一枚でした。
最後に当時撮影した「私にとっての」いい写真を少しご紹介します。